スプーの日記2暗闇のモンスター 送料無料

不思議の国の『スプーの日記』 なかひら まい (PR誌「トランスビューNo10」より」『スプーと死者の森のおばあちゃん』の主人公スプーは、誰も知らない小さな国で、魔術師をめざして修行中だ。スプーは、体外離脱をして、死の世界へ出かけたり、森の中にいる精霊を見たりする。 死の世界では、死んだおばあちゃんに会って、話をしたりもする。そんなスプーの摩訶不思議な日常を、日記とイラストを交え、ブログで連載していたものを一冊にまとめたのがこの本だ。 現実の生活に振りまわされている現代人には、死の世界や精霊なんて、ファンタジーの産物と映るかもしれない。そういったものは、ファンタジーとして楽しむもので、現実ではない、という人もいる。 しかし、実際に心に残るのは、情報よりもイメージだというのも、また事実だ。 たとえば、テレビをつけると、カフェや小綺麗なホテルや、アパレルの映像が、怒濤のように流れている。東京で暮らしていると、そういった場所になんとなく足を運ぶこともある。 ただ、足を運んだからといって、お店の名前や場所を正確に覚えているわけではない。しかし、お店の雰囲気や、人混みの喧噪の中を歩いた印象は残っている。お店の名前や場所などの細かい情報は意外と記憶に残らないが、イメージはより長く心にとどまることになる。情報よりもイメージの方が、人にとっては、現実的であるのだ。 死の世界や精霊、妖怪、神々、怨霊なども、同じことだ。それらは不可視なものだが、心の中にはっきりとしたイメージを思い浮かべることができれば、それもまた、その人にとっては現実なのだ。 一昔前には、妖怪や妖精を見る人が当たり前にいたことを、ご存じの方も多いだろう。現代でも、怪異の体験談は数多く報告されている。 たとえば、よくある怪談に、手の幽霊がある。不気味に手だけが現れ、窓ガラスを叩いたりするのである。手の幽霊は、恨みや悲しみが手のイメージとなって、一人歩きしたように映る。心の中に浮かんだ幻覚のような気もする。もちろん、 幽霊は、心の奥に潜む恐怖の感情の具現化であるともいえる。それはそれで、間違いではない。しかし見る人にとっては、空想を超えて、現実化している。そして、そのイメージを心でとらえた瞬間に、その人にとって、それは現実のものとなる。 中村雅彦氏の『呪いの研究』(トランスビュー)では、現代でも四国に実在する、シャーマン(拝み屋)の実態と、神仏に関わる人々の想いや苦悩が、心理学や民俗学などの視点から、詳細に描かれている。不思議なものたちと現実は、そうやって地続きで繋がっているのだ。 スプーの世界で描かれている魔術師とは、精霊や魔物や神々など、心の奥にある不可視のイメージを現実のものと捕らえ、格闘する人々のことである。彼らは、死んだ者と対話をしたり、タリズマン(護符や呪文で異世界と渡りあう。『スプーと死者の森のおばあちゃん』はファンタジーではあるが、単なる想像の産物ではない。主人公のスプーは、精霊たちや神々など不思議世界の住人を通して、自分自身と向かい合っているのである。 『スプーと死者の森のおばあちゃん』を通して、読者がもうひとつの現実を発見できれば面白いと思う。情報という表層のフィールドから踏み込んだ心の中の現実を、この物語を通して認識し、楽しんでもらえれば、作者としては本望だ。 (なかひら まい/作家)

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